野球の障害で最も多い投球障害
野球の障害の多くは投球動作によって生ずる障害であり、発生箇所は肩甲骨を含めた上肢に集中しています。
具体的にはおもに肩、肘の関節に発生しており、その障害の程度によっては手術を必要とするものも少なくありません。投球動作によって生じる肩関節の障害を「野球肩」・「野球肘」といいます。
投球障害が起こる原因
投球障害の原因は運動連鎖の波綻連続投球や投球数の増加によって肩、肘の一定の部分が繰り返しストレスを受けることで生じる疲労骨折や筋、靭帯の損傷と考えられています。投球障害の訴えは違和感、不安感などから投球できないほどの痛みまで色々ありますが、おもな症状は腱板に関するものと関節唇に関するものに分かれます。
成長期の子供に多く見られる投球障害
投球による障害は子供、とくに成長期の子供に多く見られます。成長期には骨端線の障害が多く、小中学生時代に負った障害(特に肘の障害)が潜んでいる可能性があります。潜んでいた肘の障害は、高校でボールが軟球から硬球に変わってプレーを始めることで肩、肘にかかる負担が急に大きくなるため表面化しやすいと考えられます。また肘障害の合併による肩の障害が起こる頻度も増える可能性があります。
野球の障害:部位別比率
1位 肩関節 39.9%
2位 肘関節 23.7%
3位 腰部 8.2%
4位 膝関節 7.2%
5位 手関節 2.4%
肩の障害
● 上腕骨近位骨端線離開
肩甲上腕関節を構成する上腕骨の骨端線(成長線)が離開(離れてしまうこと)する障害です。10~15歳の成長期では、骨の成長がまだ終わっていない為、程度をこえた投げ込みなどによって発生します。投球後に痛みが残る場合があり、「リトルリーグショルダー」とも呼ばれます。
● 肩峰下インピンジメント症候群
肩峰の下面と腱板の間で、肩甲骨が上方へ上がる動きや肩甲上腕関節で上腕骨の軸を中心にした回転運動による衝突(インピンジメント)によって発生する障害です。症状がひどくなると腱板炎、腱板断裂といった悪い段階へ移っていきます。肩関節が緩くても肩甲骨の周りの筋肉が硬い場合でも、肩峰下インピンジメントを生じやすくなります。したがって肩甲骨周囲筋の柔軟性はとくに重要です。
● 腱板損傷
肩関節と腱板(とくに棘上筋、棘下筋)が上方で衝突することで生じる障害です。程度をこえた投げ込みなどによる投球動作の繰り返しによって発生します。
● スラップ病変
関節唇の前上方に生じる障害で関節唇周辺に引っ張られる力と上腕二頭筋長頭腱に交差する力が加わることで生じる障害です。投手によく発生しますが、なかでも全力投球タイプの投手に多く見られます。
● ベネット病変
程度をこえた投球動作の繰り返しによって上腕三頭筋長頭腱に張力が働き肩関節後方の関節包や関節唇に引っ張られる力が働いて骨が変形してしまう障害です。この骨の変形(骨棘形成)が投球障害の原因になります。
● 肩甲上神経障害
肩甲上神経が絞扼(締め付けられること)される障害です。神経が締め付けられる為、痛み、シビレ感があるまま、投球を続けると棘上筋、棘下筋に麻痺が生じることがあります。
肘の障害
● 野球肘
ボールを投げようとすると、肘関節にどのような力が加わるでしょうか?肘の内側には引っ張る力が、外側には圧迫する力が働きます。子供の肘関節は、投球によるストレスが繰り返し加わることにより、内側では筋肉や靭帯の付着している軟骨・骨・靭帯自体が引き裂かれてしまうケガが、外側では関節内の軟骨や骨が壊れてしまうケガが発生します。これが『野球肘』です。
● 症状と治療
押した時の痛み(圧痛)・運動時(投球時)の痛み・運動後(投球後)の痛みなどがあります。痛みの治療としては、レーザー治療・SSP治療・はり治療などの理学療法と、安静・固定が必要です。約3週間が経過したら、症状を診ながらフォームチェックをし、再発しないよう痛みの出ない投球方法を指導します。これが重要なポイントになります。
● 離断性骨軟骨炎
投球動作の繰り返しの負荷によって、骨軟骨損傷を起こした障害です。10~15歳の成長期には肘関節に成長軟骨があり、外側内側に骨端線(成長線)があります。骨端の関節軟骨は引っ張られる力や強い圧迫や引きちぎられるような力に対して弱く、投球が多すぎるとこの障害を生じやすくなります。
● 内上顆骨端線離開
手関節を手前に曲げた時や物を強く握ったとき、肘関節の内側には強い牽引力と外反力によって肘の内側の骨がはがれてしまう障害です。リトルリーグが肘と呼ばれ当院でももっとも多い症例です。
● 内側側副靭帯損傷
過度に投球動作を繰り返したり、正しく安定したフォームで投げていなかったりすることにより、肘関節には外反ストレスが繰り返しかかります。その結果、内側側副靭帯の牽引力が作用して、内側側副靭帯の付着部で剥離骨折を起こすこともあります。
● 回内・屈筋群筋筋膜炎 上腕骨内膜炎
肘の内側の筋肉が投げすぎると筋筋膜に炎症や変性による小さな断裂が生じて、肘の内側に痛みが出る障害です。
● 肘頭骨端線離開
投球動作における上腕三頭筋の収縮の繰り返しにより、肘頭骨端線部分に離開を生じる障害です。成長期の子供に多く発生します。
● 肘頭骨端炎
投球動作で肘頭の上腕三頭筋の付着部に痛みと同じ箇所に圧痛が見られます。程度を越えた投球の繰り返しによって小さな骨折や分離などが引き起こされるのが原因です。
治療
リトルリーガーズショルダーに対しての当院の治療法は、超音波療法・筋肉マッサージ・ストレッチ・テーピングになります。超音波療法では、肩の痛みがある部位の炎症を落ち着かせます。筋肉マッサージでは、投球動作により負荷がかかり固まってしまった筋肉を柔らかくする効果があります。筋肉を柔らかくするのと同時に筋肉の伸張性を戻すためのストレッチをおこないます。テーピングは状態により必要性がある場合に施します。
野球肘のチェック方法
チェック法①
利き腕の肘の内側の辺りを押してみて圧痛があれば野球肘です。ピッチャー経験のある人ならば誰でも多少の痛みがあります。これは前腕の筋肉の使いすぎが原因で、特に肘の内側に圧痛があるのは前腕屈筋群の使いすぎです。(上腕骨内側上顆炎)速いボールを投げようとするほど、肘の負担は大きくなり、投球動作がくり返されると腱部に微細断裂が生じ、腱部を押すと圧痛がみられる野球肘になるというわけです。
チェック法②
上腕二頭筋と上腕三頭筋の間を押して痛みがある場合も野球肘です。この症状は特に子供が多く、野球チームの監督や親に怒られたくない、 野球を辞めたくないなどの理由で痛みを隠している場合が多いです。お子さんでこのような症状を伝えてきた場合は要注意です。悪化する前に検査を受けましょう。
チェック法③
肘を曲げて、手を外側に曲げた時に肘の内側が痛い時は靭帯(じんたい)を痛めている可能性があるので注意が必要です。なぜならば、一度切った靭帯(じんたい)は、元に戻らないので、選手は手術をして靭帯(じんたい)を繋ぐくらいしか治療方法がありません。靭帯(じんたい)が切れてからでは遅いので、こういう症状がみられた場合は、至急ご来院いただくかご相談ください。